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2006/02/12

日本が危ない:少子化問題の真実 1

「日本が危ないカテゴリー」では現代日本が直面する様々な問題を論じていく。
(内容が固いので、文体もこんな感じです。)
いくつか気になるテーマがあるが、新聞などの論説さえ誤解や勉強不足と思わざるを得ないものを、重点的に取り上げていきたい。
猪口大臣に代表される最も誤解されている、少子高齢化問題を最初に取り上げる。
一括して語られることが多いが、少子化と高齢化は、本来別の問題である。
原因も、背景も、対策も異なるものを一括して論じることは適当ではない。
まずは、少子化問題から論じていたきい。

少子化問題とはなにか。

先日、日本政策投資銀行参事役 藻谷浩介氏の講演を聞く機会があった。
通常、出生率の低下として語られることの多い少子化問題を、年齢別の人口数とその中長期的変動により分析する斬新な視点には、大いに学ぶところがあった。
藻谷氏も、多くの識者と同様に少子化を問題とし、何らかの対策が必要であると結論づけていた。

しかし、少子化は必ずしも日本の将来にとって、望ましくないとは断言できないと思われる。
過密で住みにくい日本の都市が抱える多くの問題は、少子化によって自然に解消される。
その他にも、少子化には多くのメリットがあることは、後に詳細に論じたい。

まずは、一般に語られる少子化問題の課題を整理しておきたい。

*労働力人口の減少
*経済活力の低下
*地域活力の低下
*子供の健全な成長への影響
*社会保障制度の破綻

ネットで検索すると国や国立研究所の公式サイトをはじめ、少子化問題を取り上げたページがヒットするが、以上の5つでほぼ全ての課題を網羅するようである。
一見してわかるとおり、少子化の最大の問題は、現在の日本の経済構造と社会システムが維持できなくなることにある。

少子化問題は、少なくとも一義的には、子を持たない親や数少なく生まれてくる子供自身の問題ではないのである。

労働力人口の減少・経済活力の低下

この二つは関連した課題である。
少子化による若年人口の減少は、就業人口=労働力人口の減少をもたらす。
サービス産業化が進行しつつある日本において、労働力の高齢化そして絶対的な減少が、産業活動の低下と衰退を招く。
労働力人口の減少は、同時に消費人口の減少であり、内需の減少により、国内の経済が縮小することとなる。というのが、その主張の要点である。

この認識には、いくつかの致命的な見落としがあるように思う。
企業の生産活動は、必ずしも労働者数に比例するわけではなく、生産手段の改良=技術革新など他の要素が関連するからである。

高度成長時代の労働力不足を、企業は「省力化投資」と名付けられた機械化と技術革新で乗り切った。
2007年問題と言われる団塊世代の大量退職にあたっても、同数の人員の補充をする企業は稀であり、多くは事務の合理化や一層のOA化により対応するはずである。
少子化に伴う労働力の減少が、後に詳細に説明するとおり、今後20年以上にわたり継続することが確定している以上、企業は労働力人口が増加するまで、待つことは出来ないのである。

また、労働者=豊かな消費者、高齢者=貧しい消費者との図式も過去のものとなりつつある。
団塊の世代に代表されるこれからの高齢者は、平均的には多額の貯蓄と資産を保有する豊かな国民なのである。
フローの所得に偏った現行税制において、高齢者のストックとしての富は退職後も維持される。
労働力人口の減少にも関わらず、高齢者が国内需要を支える可能性は高いのである。

また、遺産として世代垂直的に移動する富も大きい。
富の総量が変動しない限り、経済活力は変動しないはずである。

地域活力の低下

この課題は、やや曖昧であり意味が多様である。
地方自治体の税収不足から行政サービスが低下するとの観点から論じていたり、子供が少ない地域コミュニティーの活力を論じていたりする。

前者は基本的に労働力人口の減少と同一の観点のものである。
後者は、戦後日本の大都市周辺特有の現象の変化を論じているように思われる。

高度成長期の大都市圏への人口集中とベッドタウンの形成は、両親と子供2人の核家族すなわち「標準世帯」が集中する特殊な地域を出現させた。
多くの労働者が都市に通勤するサラリーマンであるため、昼間には子供と専業主婦ばかりが多い特殊な地域が、数多く出現したのである。
学校の教育、学童保育、少年非行、進学競争など、行政サービスの優先順位が子供に偏っているのはベッドタウン特有の現象である。
一方で、大都市圏に若年人口が流出した過疎地域では、地域活力の低下は戦後一貫した行政課題である。

経済問題を切り離して考えると、地域に若年人口が少ないことは、大きな問題ではないことに気付く。
一人ひとりの国民にとって、自らのライフステージに見合ったサービスが地域で提供されていれば良いのであって、あらゆる年齢層が均等に分布していることには、積極的な意味はない。
むしろ、特定の年齢階層が地域的に集中していたほうが、行政の効率は良くなるのである。

高齢者の極端に少ないベッドタウンに、高齢者福祉施設が必要なかったように、子供の少ない地域には学校も保育園も不要である。
少なくとも特定の個人にとって、同じサービスを必要とする人だけがいる地域のほうが、税負担に代表される各種の負担が少なくて済み、受けられるサービスの向上が期待できるのである。

子供の賑やかな声がしない街は、街として不自然であり、活力がないとの意見は、情緒的で郷愁に満ちた単なる幻想にすぎない。

子供の健全な成長への影響

子供の数が少ないことで、子供相互の交流が減少して社会性が育たない。親が過度に子供に干渉するなど子供の人格形成に支障が出る。などと言う見解である。
もっともらしく聞こえる意見ではあるが、ではどのくらいの子供の数がいれば良いか、大人と子供の適正な比率はどのくらいかと考えると、ほとんど根拠のない意見であることがわかる。

子供の数が少ないことは、長い間、文明度・文化度を図る重要な指標であった。
多くの国民は忘れてしまったようだが、文明国・先進国と呼ばれる国は、いずれも出生率が低く、日本の出生率の高さを後進国の証拠と決めつけてきた歴史が、日本にはある。
今でも、国民生活を向上させるために、産児制限を推奨するのは、発展途上国では一般的で、極めて効果的な政策なのである。

「引きこもり」「ニート」「青少年の凶悪犯罪」など、現代日本の青少年の病理現象を、少子化と過度に結びつける傾向があるが、科学的根拠は薄い。
むしろ、産業構造や社会構造の変化、教育理念の混乱など多様な要因が複合していると考えるほうが自然である。

中国において、長く「一人っ子政策」が行われているのは承知のとおりであるが、同様な現象は報告されていない。
それどころか、十分な教育の機会が与えられた優秀な人材が輩出され、経済成長の原動力となっているのは事実である。

子供を健全に成長させるのに必要なのは、優れた教育システムであり、子供の数ではないと言えるだろう。

社会保障制度の破綻

この課題は既に別に論じたように、少子化問題と切り離して解決可能である。
それどころか、今後、出生率が回復したところで、現行年金制度の破綻は回避不能である。
藻谷氏が鋭く分析するように、すぐに出生率が増加に転じたとしても、その生まれた子供が年金掛金を払うようになるのは20年近くも先のことなのである。

しかも、団塊ジュニア層がすでに40代に近づきつつある現在、出産適齢期にある人口は今後とも長期に渡って急速に減少を続けることが確定している。
当然、生まれてくる子供の絶対数も減り続けるのである。

一方で、年金受給年齢に達した団塊の世代以下の高齢人口は、わずかに自然減をしながらも、20年以上にわたって急増し続ける。

既に生まれている人口構成は、戦災などの特殊な社会的要因がない限り、ほぼ変化することはないのである。
平均寿命が80歳を超える日本にあって、今の50代はほぼ全員が20年後には70代となるのである。

すなわち、現行の社会保障制度の破綻は厳然として不可避な事実であり、出生率を向上させる少子化対策で回避可能な課題ではないのである。

この問題を論じているブログがいくつかありました。

明日を拓く
http://blog.so-net.ne.jp/metro/2006-01-15/trackback

栗原潔のテクノロジー時評Ver2
http://app.blogs.itmedia.co.jp/t/trackback/98423

(続く)

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