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2006/03/20

素晴らしき科学の世界:すばらしい新世界

すばらしい新世界

このブログのタイトルは、この本からヒントを得たものです。
何とも陰鬱な内容の本なのです。
未来社会を描くSF本は数多くあります。有名なところでは「1984年」や「華氏451」など。
いずれも個人や思想が抑圧された未来社会を描くことで、現在(本が書かれた当時)の危惧すべき状況や環境に警鐘を鳴らす重要な役割を担ってきました。

物語は比較的単純で、キリスト教に替わって「フォード教」(あの自動車で有名なフォードが教祖です。)が支配する未来社会。
子供は工場で大量生産され、生まれた(生産された)ときから階級が決定されています。すべての人は、生まれた階級で幸せに暮らせるよう、睡眠学習により徹底的に条件づけをされているのです。
ほとんどの人は単純労働に従事していて、人々の幸せは一日の終わりに支給される薬品「ソーマ」と都市郊外でのレクレーションそしてフリーセックスによって十分満たされています。
そこに昔ながらの方法で「生まれた」原始人が連れてこられることで物語が進行していくのです。

この「すばらしい新世界」は、比較的マイナーな著書と言わざるを得ないでしょう。
理由の一つは、肝心の未来社会がいかにも古くさいことにあります。
人はビーカーの中で大量栽培されて誕生するのですが、その工場には冷房すらありません。そして、主なコミュニケーション手段は訪問するか、電話。移動手段は支配階級は個人用ヘリコプターですが、一般階級は混雑した列車。
どの家庭にもパソコンとインターネットがある現在、未来社会のテクノロジー環境の古めかしさは致命的とも言えます。
著者ハックスリーの作家としての未熟さゆえの、描写の甘さも目につきます。
存在しない未来社会だからこそ、装置や風景、テクノロジーなど細部の詳細な描写は不可欠ですが、ほとんどまったくと良いほど描写されていません。都市がどんな構造をしているのか、どの位広いのか、部屋の様子、衣服、何気ない日常風景などの描写が決定的に不足しているため、物語が進行する舞台を具体的にイメージすることは、ほぼ不可能です。

更には、著者が読者に問うているテーマが現実的なものではなく「人にとって幸せとは何なのか」「人にとって宗教は必要か」「どう生きるべきか」など、高尚で哲学的なものであることが、余計に負担になります。
しかも、物語のクライマックスとも言うべき原始人と支配者との対話において、未来小説の定石とも言うべき「憎むべき未来社会に対する反逆者の勝利」が否定されてしまいます。
すなわち、生まれる前から階級が決まっていて、与えられた仕事と個人の価値観が一致するよう教育され、テクノロジーの進歩により病気や老いや貧困などとは無縁の社会が肯定されてしまうのです。
議論に破れた原始人は一人孤独な生活を求めて隠遁したうえに、更なる悲劇が。
これでは、人気が出ないのもやむを得ないでしょう。

特に、国民的無宗教社会で「一億総中流」の画一的価値観を共有してきた日本人にとって、テーマ自体が関心がないものであった感は否定できません。
しかし、日本社会の平等幻想が崩れ格差が拡大している今。
社会システムが崩壊しつつあり、将来が不安な今。
若者を中心に、働くことや人生の目標、幸福の定義が混沌としてしまった今。
この小説の問いかけの重要さが再認識されるときだと感じられるのです。

すばらしい新世界 すばらしい新世界

著者:Aldous Huxley,ハックスリー
販売元:講談社
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