105円の本達:司馬遼太郎「最後の将軍」

今も昔と変わらぬ人気の司馬遼太郎である。
ベストセラーが多いこともあって、105円コーナーでも良く見かけることが出来る。
「最後の将軍」とは、徳川幕府最後の将軍である徳川慶喜のことである。司馬遼太郎が特に好んで題材とした幕末から明治にかけてであるが、徳川慶喜はその重要な登場人物の一人にほかならない。98年にはNHK大河ドラマにもなったので、ご覧になった方も多いだろう。
司馬遼太郎といえば「司馬史観」とも言われる独自の歴史観に基づく歴史小説が人気である。皇国史観に縛られた日本人にとって、まさに目から鱗が落ちるような新しい日本の歴史が、司馬遼太郎によって小説のなかで繰り広げられたのである。
戦後に教育を受けた世代にとって「司馬史観」は「正しい日本の歴史」にほかならない。NHKの歴史番組など、それの否定にこそ新しさを見つけ出しているほどである。
司馬遼太郎の手にかかると、今まで歴史的存在に過ぎなかった人物達が、明確な意思をもって歴史を動かし始める。簡潔に迷いなく描き出される時代の空気のなかで、語るべくして語られる台詞と必然的な行動が、実に鮮やかに歴史を作っていくのである。司馬遼太郎が一つの小説を書き始める時、すでに登場人物は独自に意思を持った存在であるに違いない。そう思わせるほど、司馬遼太郎の筆に迷いがないのである。
しかし、この「最後の将軍」に限っては、司馬遼太郎の迷いが感じられる。想定外の言動をする徳川慶喜が、司馬遼太郎の理解を超えているのである。司馬遼太郎の歴史小説において、このような迷いを感じるのはこの一冊のみである。それはとりもなおさず、徳川慶喜その人の不可思議さの結果なのだと思う。
司馬遼太郎らしからぬ、やや混迷した展開ではあるが、江戸がどう終わり明治がどう始まったかを知るのに最良の一冊であろう。
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最後の将軍―徳川慶喜
著者:司馬 遼太郎 |
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