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2006/06/21

105円の本達:杉浦日向子「4時のオヤツ」

4時のオヤツ

江戸をテーマにした漫画で鮮烈なデビューを飾った杉浦日向子。
40歳を越えて、突然「隠居」を宣言して本業から身を引き、その後は趣味に生きた昭和に生まれた江戸っ子である。
蕎麦や銭湯など東京にわずかに残る江戸の風情を愛し、数々のエッセイを雑誌に書くほかは、長くNHK「お江戸でござる」で粋な着物姿で江戸文化を語っていた。
彼女の本は人気が高いのか、めったに105円コーナーで見かけることはない。
「4時のオヤツ」は初めて出会った彼女のエッセイ集である。テーマは、東京(江戸)の銘菓かと思いきや、まるでドラマの脚本の一部のような不思議な一冊である。
描写されるのは、20世紀末の東京の街の人々のごくごく普通の日常の一断面とも言うべき、何でもない会話である。洋服や髪型などの簡潔な描写に続き、短い二人の台詞が交わされる。2人の関係は親子や夫婦、運転手と客など様々で、語られる会話もこれといって共通しない。唯一共通するのは、東京人に愛されている銘菓や甘味などまさに「オヤツ」が出てくることだけ。とは言っても由緒や蘊蓄が語られるわけでもなく、ごく平凡な一言の感想が台詞としてぽつりと語られるだけである。
このエッセイは何なのだろう。きっとこういうことに違いない。
100年もたった頃、前世紀末のメガロポリス東京を研究する酔狂な研究者に、当時のファッションやごくごく普通の人々の生活や会話を記録として残しておきたかったに違いない。なんでもない江戸の日常が落語になって残っているのが、江戸研究家である彼女には嬉しくもあり、羨ましかったのだろうと思う。
そんな彼女も今はもういない。
小さく丸くなって、子供達に昭和の昔を語る可愛いお婆さんになった彼女を、見ることができないのをとても残念に思うのである。

4時のオヤツ 4時のオヤツ

著者:杉浦 日向子
販売元:新潮社
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