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2006/10/05

日本が危ない:献策十講 安倍政権の誕生にあたって

 良い意味でも悪い意味でも戦後日本政治において「特殊」であった小泉政権が終わり安倍政権が誕生した。
 自民党内とその支持基盤の多くの支持を得て誕生した安倍政権は、その経緯を見ても戦後保守政権の王道、すなわち小泉以前への回帰を指向することが運命づけられた政権である。安倍政権が国民の支持を受けることができるかは、将来にむけた優れたビジョンとそれを支える政策群を提示できるかにある。特殊な小泉政権の政治運営や経済運営に馴染んだ国民にとって、保守の王道を歩むであろう安倍政権の政局運営手法は、国民不在大企業重視の小泉以前の「制度疲弊した末期症状を呈した保守政権の閉塞」を思い出させるに違いない。安倍政権にとって、国民が失望する前に小泉政権を凌ぐ「国民が希望を持つ明るい将来像」を明確に示すことは急務である。
 長く自由民主党の支持基盤を支えた経済団体や大企業、要するに財界との関係の希薄さが5年を超える小泉政権にとっての強みであった。バブル崩壊後の経済の構造的閉塞状況にあって、既存の経済体制を抜本的に変革することは、その当事者である大企業や中小企業を支持母体とする政治家には決して出来ないからである。小泉政権の特殊さとは、財界にヒエラルキー的な支持を持たず、政策特にその経済政策を霞ヶ関の官僚群に依存せず、意思決定を党内の利害調整システムに依ることなく自由に行える仕組みを巧みに構築したことにあったと総括できるだろう。今振り返ると場当たり的に見えた小泉首相の言動が、その目的のために充分意識的に計画的に積み上げられていたことが解る。党内に意図的に「敵」を創造することで、野党の自民党への攻撃を分散させむしろ政権基盤を安定させた手法も見事なら、とかく象牙の塔で空虚な理論を弄ぶ傾向が強い学者(特にその傾向が強い経済学者)から竹中平蔵と言う実務的能力を有する人材を見出して、最大の課題である経済復興を一貫して任せて後悔しない剛胆さも素晴らしい。強いて言うなら、日本遺族会と言う自由民主党の古くからの支持母体を取り込むための靖国参拝の公約が、最後まで大きな制約となって、外交政策の閉塞を生み常任理事国入りなどの課題を積み残したことが残念である。
 党内基盤が強く、広範な経済界の支持を得た安倍政権にとって、一般国民以上にそれぞれ支持母体を持つ党内派閥の利害を調整し、小泉流政策体系を軌道修正することは不可避の作業である。それは、規制緩和を基調として既得権益を持つ古くからの産業界の利益を経済復活の犠牲とした経済政策の放棄に他ならない。規制緩和は基本的には一般国民の利益と一致し、新たな企業を創業する若者達の活力の源泉となった。その放棄は、直ちに国民の失望を蜂起させかねない危険な選択である。それを選択せざるを得ないのが安倍政権の構造的ジレンマなのである。
 一見したところ、新しい世代に属していて政策通であるような印象が強い安倍氏であるが、その提示する主要な政策の多くが「先祖帰り」とも言うべき古くささ・保守性が目立つことが心配である。その原因は、安倍氏自身が学界特に新進気鋭の学者と広い交流を持っていないことや、その政策が各派閥の支持母体の各種団体のそれを焼き直していることにある。そして、優れたブレーンを持たないことで、小泉政権下で冷遇されていた霞ヶ関の官僚群が「起死回生」を図って提供しつつある「新たな政策」を、充分取捨選択できないままに安易に取り入れていることも、その保守性を際立たせているようである。
 バブル崩壊への対応が急務であった小泉政権において、経済政策を主体とした「骨太の方針」を国民の多くは支持した。21世紀、曲がりなりにも深刻な経済状況からの脱却に成功した今、少なくとも100年を見据えた明確で整合性と現実性のある体系的な総合的国家ビジョンが必要である。どんな幸せな人生を歩むことができるのか、それを日本という一つの国家がどのように保証してくれるのかを国民は知りたいのである。どう学び、どう働き、どう暮らし、なにを楽しみ、なにに満足するのか、その具体的政策とロードマップ(工程表)を明示してほしいのである。それに応えることが政治の本来の指名である。
 アメリカの大統領選挙そして就任演説で語られるのは、まさにそれである。そのビジョンが支持されることで新たな大統領が誕生し、そのビジョンが失われたとき政権は国民に見放される。そんな健全な民主主義が政治の世界に根付いていることを羨ましく思わない日本国民はいないだろう。
 安倍政権にとって必要なものは、安定した支持母体や党内基盤ではない。国民が期待する政策群を生み出す優れたブレインこそが必要なのである。利害関係のある業界団体を多数有する霞ヶ関の各省庁の政策立案能力は極めて高いが、それに互角に対峙し凌駕する政策集団を構築できるかが重要である。既得権に絡みとられた霞ヶ関官僚が立案する「業界寄り」の政策を否定し、真に国民の利益を具体化する政策を立案できるかが問われているのである。
 古くは中曽根政権がそれに成功している。その手段は広く学界から人材を集め審議会や私的諮問委員会などを活用することであった。子飼のブレインがいなくても政策集団を創造することは可能であることの良い例である。霞ヶ関の各官庁から10名ばかりの優等生官僚を推薦で集めたところで、何の革新もできないことはあまりに明らかである。

 そのために一人の人間ができることはあまりに少ない。しかし、何もしないで不満のみを語ること国民の一人として卑怯であるように思われる。

 古来、中国では新しい政権が誕生すると、学者達が新たな政策を献上し自らの仕官を争ったと言う。現在のアメリカにおいても、時の政権に自らの学説が採用されその責任者に任じられることは学者にとって最大の名誉である。しかし、日本において学者は実践を尊ばない。自らが政権に席を置き学説を実践した例な極めて希有である。政策を論じ実践することは、日本においては官僚の独断場なのである。

 そのような状況だが、このブロクでは「献策十講」と題して主要分野ごとに安倍政権において実現にむけ努力すべき政策を、これから10回にわたりあえて提案してみたい。既存の政策と方向性も違い、充分な研究もしていない「骨太なアイディア」に過ぎないものもある。しかし、それが与野党の論戦のなかで何らかの役割を少しでも果たすことがあるかもしれないと考え、まずは提示することから始めたい。

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コメント

安倍政権は古臭いと言われるが、古臭い自民党政治で、安倍政権が始まってここ数日にして進んだ事柄が出来たとお考えかのう。
小泉政権に欠けた仁義を取り戻し、美しい大和魂に戻った新しい政権じゃと思いますがのう。

投稿: ひこ山 | 2006/10/15 07:57

「君子は豹変する」という。それをしなかったのが前総理じゃった。内政では大鉈を振るい効果を上げたが、歪みも出た。
外交では片目つぶってしまった。
それを支えた安部官房長官が総理の座に着いた。そのイメージだけで或いは過去の言動だけで行く末に疑問を投げかける人は多い。
しかし、この数日、国会やマスコミを賑わしている変貌は誰が予想したじゃろうか。
中国・韓国のトップ会談がこんなに速く実現すると思った人が何人いたでしょうか?
安倍総理は真の「君子」じゃと思う。国の行く末や過去との連続性を考え自らの考えを押さえ豹変出来た。
勝手な想像も面白いですが、現実を見て行く事も大事だと思いますなぁもし。

投稿: ひこ山 | 2006/10/08 11:09

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