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2006/10/06

日本が危ない:献策十講「税制改革」

 税制改革に関する安倍政権のビジョンはあまりに貧弱である。総裁選を通して明らかになったことは要するに「とりあえず歳出を削減しましょうよ。税金を上げるのはそれから(参議院選後?)と言うことで」と言うことだけである。
 かねて論じてきたように日本人は真面目である。よって、何でこんな巨額の赤字が生まれたのかという原因を追求もしないまま、このままでは国が滅びるとでも言わんばかりに、真剣に我がことのように心配している。
 善良と言えば聞こえは良いが、言ってみれば「アホ」である。自らが選挙で選択したとは言え、ここまで無為無策のまま赤字拡大を許してきた政治家と政権党に、まずは選挙によって責任を取らせ下野させるのが本来なのである。欧米先進国ではそのような方法で、中南米諸国などでは場合によっては暴動や軍事クーデターで政権を交代することで、政策を転換し事態を収拾するのが定石なのである。
 今や税制改革とは、消費税引上げのみに意見が集約されそうな情勢であるが、実は政策的選択肢は多い。その選択肢が提示されないことこそが、財務省官僚の悪意ある意図である。まずは、税制改革から論じたい。

源泉徴収所得税廃止と富裕税の創設
日本の税制において世界的にみて極めて特殊なのが、所得税の源泉徴収制度である。その歴史は、明治時代に旅芸人などからの税金徴収に苦慮した政府が、その謝金を支払う興行主などに予め税金分を差し引くことを義務づけたことに由来する。それが、第二次世界大戦中の行政改革の一環として給与所得者すなわち会社員に拡大されたものが、今日まで継続しているのである。
ご承知のように西欧を中心とする多くの国では、税金は自ら申告し納税するものである。申告する側の負担も大きいが、徴収する側にとっては未申告や過少申告の審査など、源泉徴収に比して極めて大きな事務負担を伴うのである。結果として、一般に所得税の課税最低限を高くすることで納税義務者数を抑えることが必要となっている。
戦後の第一次産業の衰退によるサラリーマンの増加により、所得税は国の主要税目となったが、それは源泉徴収制度なくしてはあり得ないことだったに違いない。
日本の所得税は、サラリーマンの所得捕捉率が100%に近く、国が必要とする徴収コストが極めて低いことから、課税最低限も低く容易な増減税手段として乱用されてきたのである。
ここで重要なことは、源泉徴収制度が本来税金の形で公平に負担されるべき運用コストを、納税義務者である民間企業に過大に負担させていることである。西欧にある企業であれば負担する必要がない、従業員の所得税の徴収と納付に要する負担が各企業に負担されているわけである。源泉徴収制度が廃止されれば、従業員を有するあらゆる企業は、本来は必要ないその膨大なコストを節約できるのである。
最近までその累進性が顕著だった日本の所得税だが、現在はフラット化が進み社会政策的に言う所得再分配機能は著しく低下している。健全な競争社会を実現するためには所得税の累進制は有害であり、社会的公平に必要な限度で一部の高額所得者に限定して富裕税を課すほうが適当である。
また、かねて大きな議論であった所得捕捉率の違いによる税負担の不公平さは、未だ解消されていない。給与所得の捕捉率に較べ農業所得や自営所得の捕捉率が極めて低いため、その納税額に著しい格差が生じている。農家の次男坊などが、所得税が非課税であり保育料を免除されているにも関わらず、子供を高級外車で送迎しているなどは今や笑い話にもならず、どこにも見られる風景になっているのは、憂慮に耐えない。
税制に最も大切なのは、税金を低く抑えることではない。必要な税金を国民皆が公平に負担することである。課税ベースが広い源泉徴収制度による所得税が中心となっている限り、公平な税制は実現不可能なのである。
サラリーマンと善良な企業を苦しめる源泉徴収制度による所得税は全廃すべきである。一方で何億もの所得を受け取るごく一部の富裕層には、それを社会に還元する必要がある。欧米の制度が広く認めるように寄附金非課税制度を大胆に拡大する一方で、高額所得者のみに課税する富裕税を創設するべきであろう。

所得課税の低減と資産課税強化
日本の税制のもう一つの特徴は、「フロー」の所得・消費への課税が過大である一方で、「ストック」への課税が軽微であることにある。すなわち、個人であれ法人であれ活動的であり高収益であるほど、多くの税負担を求められるのである。確かに短期的に収益をあげているものほど担税能力が高いことは間違いないが、それは本質的な部分で活力を低下させることを理解しておく必要がある。累進制の所得税がそうであるが、ある個人が他人以上の努力や苦労をして所得を増やしても、税制により平準化されてしまうなら、誰もが働く動機を失ってしまうのである。
今後の高齢化社会・国際競争社会を乗り切っていくためには、国民と企業の活力は高めることこそ重要であり、活力を削ぐような税制は不適当である。個人・法人の所得税や事業税は、極力課税ベースを狭くし税率も低減するべきである。
一方で、金融資産・土地や建物など固定資産に対する課税は強化するべきである。金も土地も活用され利益を生んでこそ、その価値を高めることができる。この狭い日本にあって、しかも土地価格の極めて高い例えば山手線内にあって、古めかしい2階建ての住宅が建ち、銀行預金の利子で老人2人がわずかばかりの固定資産税を負担して、無為に日々を過ごしているのは、やはり不自然なのである。(決して老人を路傍に放置しろといっているのではない!)しかも、その土地や建物、金融資産までもが、一旦相続の対象となったとたんに税金として徴収されてしまうのである。
フローの所得とストックの資産への課税のバランスは調整されなければならない。資産が活用され所得を生むような税制を設計しなければならない。金融資産は積極的に投資され収益を生む必要があり、その収益は社会に還元されるべきなどである。同様に限られた土地は有効に活用され収益を生むことで、その所有者に所得を生み、安定した豊かな生活を保証されるよう制度設計されるべきである。
ストックの増加が社会を停滞させ活力を削いではいけないのである。

税徴収の一元化と公選制課税委員会の設置
最後に徴税組織の改革を提案したい。現在、税金はその税目ごとに国・都道府県・市町村が独自に徴収している。まったくの無駄である。同一の国民や法人に対して、それぞれが所有や所得を把握し税額を計算し徴収しているのである。例えば土地であれば、売買による取得時に都道府県により不動産取得税が課され、その後は毎年市町村が固定資産税を課す。売買時には国税である印紙税や登録免許税(登記税)が必要となる。すべては一連の行為である。どこかが一括して徴収して分配すれば良いのである。行財政改革を論じるなら、まずはこれらの重複による無駄を排除するべきである。
徴税事務は市町村に一元化すべきであろう。併せて土地や企業の登記事務も国から市町村に移管するべきである。住民基本台帳を有する市町村において、個々の個人や法人の実態を把握し徴税することは比較的容易である。かねて危惧されたような市町村と地元有力者との癒着も、市町村の統合が進み規模が大きくなった今日ではさほど心配する必要もないだろう。もちろん、各市町村に、欧米の自治体などには多く見られる公選制による課税委員会などを設けて、住民による監視を強化するのも良いであろう。
いずれにしろ、一元的に徴収された税金は、国・都道府県・市町村においてその役割に応じて分配されれば良いのである。現在のように、税目ごとに徴収主体が異なるうえ、国の徴税額が不当に大きく恣意的に都道府県等に配分する仕組みは不適当であり、早期に改革されなければならない。

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コメント

法人税率は何度も引き下げられて主要国で最低水準です。
手厚い優遇措置を受ける日本の大企業の負担は、実際には、税率で比べる以上に軽くなっています。

GDPに対する法人所得課税の負担率で比較すると―。
イギリス3・5%、フランス3・4%、イタリアは3・6%。
日本は1・9%です。韓国3・1%、タイ2・9%、マレーシア6・6%と、アジアの中でも低い負担です。

首相の発言には大きなごまかしがあります。
日本の所得税制は単純な累進課税ではなく、「超過」累進課税です。
どんな高額所得者も、最高税率37%が適用されるのは千八百万円を超える部分の課税所得に対してだけです。
所得の全体に最高税率がかけられるわけではありません。

高所得者に甘い税制
 給与収入が三千万円の人の所得税の実効税率は、日本は20・3%にすぎません。
ドイツ35・7%、イギリス34・9%、フランス32・9%、
アメリカ23・8%と比べて最低です。

投稿: uu | 2006/10/08 09:54

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