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2006/10/12

日本が危ない:献策十講「教育政策」

愛国心や日の丸・君が代ばかりが話題となる教育政策であるが、改革すべきことは多岐にわたる。大きくは義務教育と高等教育に二分されるが、それぞれに組織体制と教育内容が再構築されなければならない。
明治維新とともに、日本全土で展開された国家による初等教育が義務教育である。明治政府はその後に国立の帝国大学も設置し高等教育にも着手している。いずれ も西欧型近代国家が必要とする人材を育成することを目的としていた。西欧の教育が、キリスト教的啓蒙主義の思想により、現実にも教会の宗教学校を母体とし て発達したのとはかなり趣が異なる。具体的には、初等教育によって標準語と一般的教養の普及を図り、近代工業社会が必要とする均質な労働者を育成すること。それは同時に、近代軍隊の兵士を養成することに他ならなかった。この狭い日本において多様な方言が無数にあり、有識者である上級武士を除いては相互の意思疎通も難しい状況があったし、「国民」という概念自体が希薄であって、より狭い地域や組織への帰属意識が濃厚であった。近代的統一国家にとって、意識レベルはもちろん言語や教養といったレベルでの国民の均質化は緊急の課題であった。
一方の高等教育は、江戸時代以来の儒教的教養を基本とした知識階級の西欧化を目的としていた。明治政府にとって、西欧各国と対等の国家体制を確立することは重要な課題であった。そのためには、西欧的な多様な知識・教養と常識を身につけた人材の育成が必要であった。その役割を担ったのが東京に設置された帝国大学にほかならない。明治時代とは、その初期を江戸時代が育てた異端の人材が支え、中期以降は明治国家が整備した教育システムが計画的育成した人材が支えたと言っても良いだろう。今日に至るまで、日本の教育システムの根本思想は実は明治時代のままであることは、もっと着目されて良い。
21世紀にどのような人材を育てるか、まさにそれが教育改革のテーマである。

義務教育の民間解放と自由化
義務教育とは不思議な言葉である。自らの子供に教育を受けさせるのが親の義務なのか、あるいは国(地方自治体)が国民に教育機会を与えるのが義務なのか、その根本のところが曖昧のままコンセンサスが成立していない。明治初期のそれが、前者であったことは明白である。かなりの国民が子供を就学させなかったことで逮捕(!)されているのである。後者のと解すれば、それは国民にとっては権利である。就学の機会均等や全国均質の小中学校の整備を理由とした文部科学省の義務教育の解釈は、後者の立場をとってこそ初めて説得力を持つ。
現代社会において、教育(学習)の基本的目的は自己投資である。米国では特にその意識が一般的であるが、教育はより良い職につき経済的に豊かな生活を送るための知識の取得を目的と考えることが重要である。高等教育はともかくとして、いわゆる義務教育とは、それぞれの国民が、その置かれた地域・経済環境に応じて、経済的に自立して生活するために必要な知識と教養を身につけることこそが目的とされるべきである。現在の義務教育の不自然さは、その子供が育ち暮らしていく地域や家庭環境を無視して、いたずらに均質な知識と教養を一方的に教えるところにある。現実的に将来の職業選択が固定されている場合、それに相応しい知識を早期に取得することは望ましい。一方で一生必要ないような知識を、より上級の学校に進学するために取得することは至って無駄なことである。
義務教育ほど、地域を基本として行われるに相応しいものはない。国家が近代社会の労働者と兵士を量産する時代ではないのである。本人の置かれた家庭環境と地域の状況そして基本的能力に応じて、多様な教育カリキュラムが提供されるべきなのである。そのためには、各市町村が国の定めた基準により設置運営する小中学校は不適当である。基本的に義務教育学校は民間が提供するべきであり、その費用は受益者としての本人(あるいは扶養者)が負担するべきである。もちろん、経済的弱者に対する救済は必要である。その能力に応じて公的負担により教育機会は提供されなければならない。
戦後の教育改革の原点に立ち返り、教育委員会制度を抜本的に再構築するべきである。広域化しつつある市町村を単位として、より住民の総意を代表する教育委員会を構成し、その地域における教育内容・学校の施設や教員数の基準を条例化する権限を与えるべきである。国・都道府県の役割は所謂ナショナルミニマムとしての最低基準の規制に限定されるべきであり(例えば一般教科において使用言語は日本語とするなど)、教育委員会の裁量権は最大化され最終化されるべきである。
現行の公立小中学校は、市町村が主たる出資者である株式会社に再編されるのが良い。対等の条件で、複数の民間事業者が運営するそれぞれ魅力的な私立学校と競争することが、国民に良質で多様で安価な教育機会を提供することは間違いない。
その初期においては扶養者である親が、その後期においては本人が、どのような初等教育を受けるかを自由に選択できるようにすることで、現代初等教育が抱える深刻な問題の多くは自ずと解決するはずである。

高等教育の改革
義務教育に比して、高等教育についての基本目的はより複雑である。それを受けるものにとって、高等教育の目的は、より豊かで幸福な生活を送るための知識・技能を習得する点で変わりはない。しかし、国(地方自治体)にあっては、国家にとって必要な次世代の人材を育成する手段として、高等教育は重要な意味を持つからである。
すでに多く指摘されているように、日本高等教育の基本的問題は、教育を受けるものが明確な目的意識を持たないまま、教育を受けていることにあると言って良い。高等学校への進学、大学への進学そのものが目的化してしまい。結果として、大学終了時になって、目標を喪失し無為な日々を送る若者が急増している。まさに無駄な教育投資である。そのためには、義務教育過程の後期において特に重点的に、社会の構造や初等哲学的な人生論を学習する機会を提供するほかないように思われる。そのうえで、高等教育段階における教育は、最終的に将来の経済的豊かさへの自分自身が行う先行投資であると明確化することが必要である。公的な教育ローン制度を創設し、高等教育を受ける希望がある全国民に対して、能力と必要に応じた金額を貸与するべきである。反面、私立学校などへの影響力の源泉となっている一般的な補助金は廃止し、貸与資金の原資とするとともに、私立学校が常にニーズに即したカリキュラムを提供する動機付けを強化しなければならない。
国や地方自治体、大企業が自ら必要とする人材を育成する手法は、より明確である。現在の防衛大学校のごとく、明確な目的を持った高等教育機関をそれぞれに設置することが適当である。教育終了時に、一定の条件の基にその費用負担を免除するなどして、それぞれに必要とする知識や技能を明確な目的意識のもとに教育することが良い。学生も将来の人生設計を踏まえて、目的意識をもって学校を選択することで、卒業時に困惑することなどなくなるはずである。
独立法人化した国立大学であるが、そのような意味で地域や特定の企業・組織との連携を強化できるかが最大の課題である。大学の選択時に、その後の職業生活を中心とする人生設計が明確化できるかがポイントである。

単純に偏差値別に階層化した大学が、概ね均質な人材を生み出すだけの、日本の高等教育システムは「解体的出直し」が急務であると認識しなければならない。

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