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2006/12/20

BraveBook:ショウペンハウエル「読書について」

読書について 他二篇

「デカンショ、デカンショで半年暮らし、後の半年は寝て暮らす。」
旧制高校・旧制大学では哲学を学ぶことは重要でり基本であった。
その「ショ」こそショウペンハウエルである。

哲学は現代日本において最も人気のない学問の一つに違いない。
その最大の理由は、哲学は学ぶものではなく自ら考えるものだからであろう。
大学には哲学科があるが、そこで教えているのは哲学の歴史であり、過去の哲学者が考えたことである。そこには、哲学研究家はいても哲学者はいない。

その哲学研究家になることさえ、日本では容易なことではない。
哲学者は基本的に孤独であり、考察・思索するための単語や概念の定義が独特なことがある。対立する流派はもちろんのこと、子弟間でも同じ単語が異なった意味を持つことが少なくない。

抽象的な概念を論理的に考察する哲学だが、日本語への翻訳も大きな障害になる。著者の定義した単語や概念が、日本語に置き換えることで、本来のものと一致しなくなるのである。

環境も歴史も異なる極東の島国、西欧とは異なる社会構造を持つ日本で独自に発達した日本語である。その決して多くはない概念的で抽象的な事象を表す語彙を、西欧哲学の論理的で厳格な単語と概念に対応させることに、根本的な無理があるのである。ましてや、翻訳者が未消化のまま任意に新造語を追加することが混乱に拍車をかけている。
ショウペンハウエルの主著「意志と表象としての世界」は、そんな難しい哲学書の一つであり、表紙こそ見たことはあるが、手にする勇気は未だにない。

一面でショウペンハウエルは、自らの哲学の解説を随筆として数多く執筆した希有な哲学者である。
岩波文庫から3冊が発行されているが、そのいずれもが独立して読む価値がある優れたエッセイである。

特に「読書について」は傑作である。
19世紀当時の学者・著述家・出版社などが痛烈に批判され、読書のあり方や思索の意味が見事に論述されている。著書中ごろのドイツにおける国語の乱れの指摘など、もう一つピンとこないところもあるが、全体として21世紀の今でも読むに価いする名著である。。
いたって平明で簡潔に記述された文章は、日頃の習慣や思い込みを見直すに充分な説得力を持つ、ぜひ手に取ってほしい一冊である。

この本を読んだことのある方ならご理解いただけるが、ここで本の書評をすることは憚られる。日頃、古本屋に打ち捨てられつつある駄本を漁る身に、特に応えたところを何節か引用することで、書評に代えることとしたい。

「読書は、他人にものを考えてもらうことである。本を読む我々は、他人の考えた過程を反復的にたどるにすぎない。習字の練習をする生徒が、先生の鉛筆書きの線をペンでたどるようなものである。だから読書の際には、ものを考える苦労はほとんどない。自分で思索する仕事をやめて読書に移る時、ほっとした気持ちになるのも、そのためである。だから読書にいそしむかぎり、実は我々の頭は他人の思想の運動場にすぎない。そのため、時にはぼんやりと時間をつぶすことがあっても、ほとんどまる一日を多読に費やす勤勉な人間は、しだいに自分でものを考える力を失っていく。つねに乗り物を使えば、ついには歩くことを忘れる。しかしこれこそ大多数の学者の実状である。彼らは多読の結果、愚者となった人間である。」(P127〜)

「ヘロドトスによると、ペルシアの大王クセルクセスは、雲霞のような大軍をながめながら涙した。百年後には、この全軍のだれ一人として生き残ってはいまいと思ったからである。分厚い図書目録をながめながら泣きたい気持に襲われない者がいるだろうか。だれでも、十年たてば、この中の一冊も生き残ってはいまいという思いにうたれるはずである。」(P131)

「したがって読書に際しての心がけとしては、読まずにすます技術が非常に重要である。その技術とは、多数の読者がそのつどむさぼり読むものに、我遅れじとばかり、手を出さないことである。たとえば、読書界に大騒動を起こし、出版された途端に増版に増版を重ねるような政治的パンフレット、宗教宣伝用のパンフレット、小説、詩などに手を出さないことである。このような出版物の寿命は一年である。むしろ我々は、愚者のために書く執筆者が、つねに多数の読者に迎えられるという事実を思い、つねに読書のために一定の短い時間をとって、その間は、比類なく卓越した精神の持ち主、すなわちあらゆる時代、あらゆる民族の生んだ天才の作品だけを熟読すべきである。」(P133〜)

「良書を読むための条件は、悪書を読まぬことである。人生は短く、時間と力には限りがあるからである。」(P134)


読書について 他二篇 読書について 他二篇

著者:ショウペンハウエル
販売元:岩波書店
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