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2007/02/12

政策対話編:続続・税制改革について

もう3回目です。そろそろ本題の抜本的な税制見直し策など語っていきたいところですね。

どうも話が長くていけませんね。読者の方の「ええかげんにせえよ。」とのつっこみが聞こえてくるようです。
なんとか今回で「さわり」だけでも頑張りたいと。

え!(絶句)
まだ「さわり」ですか。まだ現在の税制について語り足りないことがありますか?

税制改革案そのものについては、もういいです。(笑)
語り足りないなと思うのは「労働者」の変化についてです。前回、労働者が多様化したことを指摘しましたが、実は保守化していることも重要なのです。

55年体制では「企業=保守=自民党、労働者=革新=社会党」という構図が前提としてあったように思われますが、労働者が保守化しているのですか? 
つまり、労働者が自民党支持層になっているということでしょうか?

全ての労働者というわけではありません。
前回お話ししたとおり、労働者は多様化していて利害が異なる複数の集団に分裂しています。保守化して自民党の支持層になりつつあるのは、非常に大きな集団である「団塊世代」です。
55年体制で正に標準的労働者そのものであった「団塊世代」が、小泉改革によって利益を得る集団側なのです。

団塊世代は、昭和20年代前半生まれの人達ですね。
この先10年ほどで「労働者」から退職して「非労働者」になります。年金生活に入ることによって保守化するということでしょうか?

それもありますが「格差社会」を是認する新自由主義的改革において、「勝ち組」側に位置しているということがあります。
団塊世代の職業生活のほとんどは、戦後高度成長とほぼ一致します。その多くは、終身雇用・年功序列制度の最大の受益者と言って良いでしょう。
バブル景気の時期に、その多くは管理職から経営陣に到達しており、その後の不況によっても解雇や賃金引き下げの影響が比較的の少なかった世代でした。
高度成長期に就職した団塊世代は、地方から大都市圏に移住し定住した世代です。住宅ローンで購入した大都市周辺のマイホームは、その後の賃金の急激な上昇とインフレによるローンの目減りによって、ほとんどが繰り上げ返済によってローンも完済済みのはずです。家は、大多数の団塊世代にとって今や貴重で高額な資産となっているのです。
土地・家屋という資産があり、貯蓄もそこそこある。更には退職に伴う退職金もある。「格差社会」において、明らかに恵まれた労働者が「団塊の世代」なのです。
「勝ち組」労働者というと、六本木ヒルズあたりのIT企業創業者や幹部などがイメージされます。彼らは言ってみれば「ごく少数」の「大勝ち組」であって、団塊世代は「非常に多数」の「小勝ち組」なのです。

団塊世代が小泉改革の受益者であることについて、もう少し詳しく教えてください。

人口ピラミットを見ればわかるように、団塊世代の総人口に占める割合は非常に大きいものです。その大半は高度成長を支えた企業戦士とその妻であって、その多くはリストラされることもなく、まもなく定年退職を迎えます。
東京近郊の標準的な団塊世代想定してみましょう。
60歳の夫と55歳の妻、子供2人は大学を卒業して基本的には独立しています。家は、柏か春日部あたりの新興住宅街の一戸建てか最近買い換えたばかりの東京近辺のタワーマンションです。住宅ローンは完済していて、貯蓄は1000万円を下回る程度、退職金が同額程度予想されると言ったところでしょうか。
このような世帯にとって、小泉政権の構造改革・税制改正は大きなメリットがありました。
まず、所得税の累進緩和。当時1000万円以上の年収を得ていたはずの団塊世帯にはかなり大幅な減税となりました。小泉改革以前の累進課税は最高税率は70%で、さすがにそこまではいきませんが、1000万円を超える給与所得の税率は現在の38%をはるかに超えていました。
譲渡課税緩和と住宅ローン控除が実施され、すでに建て替え時期にあったマイホームを転売しても、買い換えしても、さらに税金が減額されたのです。
規制緩和による金融商品の多様化もメリットがありました。従来は預貯金とするしかなかった比較的小口の余裕資金をかなりの有利に運用できましたし、投資減税が行われたことで、一層実質利回りを良くすることができました。
更に相続税・贈与税は引き下げられたことも見逃せません。社会主義的傾向の強かった従来の税制においては、世代間で資産を継承することはなかなか困難でした。特に遺産相続時に課税される相続税は重く、3代で資産はなくなると言われていました。それが、小泉改革によって、あきれるほど軽減され、普通の会社員が生涯に蓄積できる程度の資産であれば、今や相続税の対象になることはまずありません。そのメリットは今後団塊世代が完全に享受することになります。公益より家族愛を重視する団塊世代にとって、自らの財産を子供に渡せるという満足度は極めて大きいはずです。
このように、従来の税制によっても恩恵を受け、小泉改革によっても恩恵を受けている団塊世代は、今の状況に至って満足しており、何の変革も求めるはずがありません。
それを、ここで「保守化」と言っています。

そう考えると年金制度改革でも、まもなく受給者になる団塊世代は得をしていますね。

年金財政の危機とは、団塊世代が年金受給者になることによって生じていると言って間違いはありません。団塊世代より上の世代は、年金制度の不備や太平洋戦争による死亡などによって、極端に年金受給者数も少なく金額も小さくなっています。団塊世代が上の世代のために負担した年金は、団塊世代の数の多さもあって「ごく僅か」なのです。
一方で、団塊世代が現役世代であった時期に年金制度が充実したため、年金掛け金に対して大きな給付を得ることができます。
本来は積立型長期保険として制度設計された日本の年金制度ですが、団塊世代は「払った金額より受け取る金額が多い」唯一の世代といえるでしょう。
今回の年金財政の危機に際しても「受け取り得」のある団塊世代の給付額は引き下げが見送らました。将来にむけ段階的に掛け金が全ての労働者で引き上げられますが、受取額が減額されるのは今後受給決定される若い層だけです。しかも、引き下げ額は当面はほとんどありません。その結果、団塊世代はほぼ期待したとおりの年金を生涯受け取ることが約束されているわけです。
このように、とても得をしている団塊世代を「逃げ切り世代」と呼ぶのは、非常に的確といえるでしょう。

なぜ、そのような「逃げ切り」が黙認されたのでしょうか?

一つは、小泉改革を主導した竹中大臣のグループが、人数の多い団塊世代を意図的に優遇して、改革賛成派への取り込みを図ったと考えられます。税制改革にしても、年金改革にしても、団塊世代が自分自身に関して損得勘定する限りでは、得はあっても損はなかったので、小泉改革を積極的ではなくても消極的に支持してきたのは明らかです。
小泉政権の高い国民の支持率は、決して雰囲気や感覚的なものではなく、団塊世代の損得勘定の結果のものと言えるでしょう。
もう一つは、小泉改革にどちらかと言えば批判的であった官僚群が、小泉政権後の方針再転換をにらんで政策実施の先送りを図った結果といえるでしょう。年金制度改革が、既年金受給者の年金引き下げなどに手を付けず、非常に長い期間で段階的に逆ザヤ解消を図るとしたことなどは、その良い例でしょう。
破綻することが確実な国民年金制度を、現時点で一旦「清算」する選択もあったはずです。現在の加入者が払い込んだ掛金に応じて、一時金を配分して清算してしまい、新たな年金制度を創設しても良かったのです。
つまり、小泉改革が意図したものと、官僚の抵抗で意図せず実現したものが、両方とも団塊世代に有利に働いたのだと思います。

一昔前は一つの集団であった「労働者」が多様化し、かなりの割合を占める団塊世代が保守化したとなると、潜在的には反保守の「労働者」を再び団結させ政治的影響力のある集団にすることは難しいですね。

野党の低調ぶりの本質的な原因はここにあると言ってよいでしょう。
連合など労働団体は、基本的には今も野党の有力な支持団体ですが、その要求は大企業の正社員など「労働者」の一部だけの要求でしかありません。
パート・アルバイトはもちろん、派遣労働者やニートなどの要望や不満などは、既存の労働組合自身が取り込みに失敗しており、場合によっては矛盾するものでさえあります。
例えば、連合が合理化反対や賃上げなどを要求することで、若年者の就業機会が奪われたり、派遣労働者や下請企業の労働者の労働強化が生じたりするわけです。
労働者を再び団結させるためには、懐の深い理念と有能なリーダーが必要でしょう。

イギリスのブレア政権は労働党ですが?

ブレア政権は、サッチャーによる新自由主義的経済改革により、壊滅的なダメージを受けた労働組合そして労働運動を見事に立て直しました。その意味で、日本における労働者層の再統一を考える際の一つのモデルと言えるでしょう。
ブレア首相の個人的魅力にも助けられましたが、ブレア党首により労働党は理念から生まれ変わりました。従来の「企業=資本家と労働者との対立」すなわち階級闘争イデオロギーの束縛から抜け出しました。自由主義経済体制で、より豊かになる労働者像、その具体的仕組みと道筋を明確に示したことで、労働者全般の支持を得ることに成功しました。
その結果、ブレア労働党政権が成立しても、サッチャー改革以前の福祉国家的政策に回帰することなく、新自由主義的経済改革は若干の軌道修正をしつつ継続されました。
ブレア政権の成功は、基本的にサッチャー保守政権の改革の結果と考えられます。その上で、労働者の利益を代表する政党として、経済的成功の果実を、より多く労働者側に分配することに成功したわけです。

日本で政権交代を真剣に考えるなら、野党は福祉国家的政策=社会主義的政策に回帰するのではなく、企業側に偏りすぎた改革の果実を、労働者に再分配することを目指す必要があるということですか?

ブレア政権の成功からは、そのような教訓を学ぶことができます。
現在、民主党が掲げる「格差社会の解消」が広く労働者に支持されている実感がありません。そのことは、民主党自身も気がついているようです。今夏の参議院選に向けた民主党の戦略は、この方向に大胆に転換されるべきだと思います。
その最大の理由は、すでに述べたような団塊世代の保守化を原因とするものでしょう。格差解消が損になる労働者が少なくないことに早く気づかなければなりません。
しかし、格差拡大の主たる被害者である若年層にも支持されているわけでもないことは、更に重要です。それは、政治的関心が低いなどという単純なものではなく、その格差解消策として提示されている内容にあると考えられます。
民主党が示す格差解消策のほとんどは、福祉国家的政策=社会主義的政策への回帰に過ぎません。弱者に対する補助金や助成金の交付・税金の控除拡大などです。
そのツケが最終的に増税となって自らに返ってくることを、多くの国民は今や知っているのです。民主党の政策を「単なるバラまき政策に過ぎない」と評するのは、多くの国民が大いに納得するところです。

野党が、新たに労働者勢力を再結集して、その有力な支持母体とするためには、労働者すべてが利益を受けることができる新たな枠組みと具体的な政策を提示しなければならないですね。

実に懐が深い理念が必要です。相互に矛盾する多様な労働者の要求を全て飲み込み、全労働者の期待に応える政策ビジョンを提示しなければいけません。
重要なことは、小泉改革は基本的に成功したのだということを理解することにあります。ポイントは、基本路線はそのままに。そして、企業側に偏在している「成功の果実」を国民=労働者に配分させることにあります。
標語風に言えば「豊かな労働者はより豊かに、貧しい労働者には家とパンを、それを行うのは国家の義務だ」こんな感じです。
幸いなことに、日本は世界経済における成功者です。国際収支は常に黒字、貿易を通じて世界の「富」が日本に流れ込んでいるわけです。
その富は、本来は国・国民・企業に公平に分配されるべきもののはずです。ところが、現在はその「富」が企業にのみ蓄積され、国家財政にも、国民の財布にも十分に分配されているとは言えません。
その「富」を、きちんと国そして「労働者=国民」に再分配すれば、財政赤字も労働者の格差も、そして不満も消滅するわけです。
「企業とは利益を生み出すことを自己目的化するものだ」という企業の本質を再認識しなければなりません。
企業を、国家と国民に奉仕させるべきです。それでは社会主義になってしまいますが。(笑)そこまで極端ではなくても、企業と国民、そして国家は「共存共栄」の関係を築けるはずです。この三者の関係は「ゼロサム」ではありません。三者が協力することで、三者ともがより豊かになることが理論的には可能なはずなのです。
その具体的な方法と道筋を提示することこそが、野党が全労働者を味方にするための唯一の「切り札」だと考えています。

野党の現状を考えると、なかなか厳しいものがありますね。
で、いよいよ本題の理想の税制を語るところまできたようですが。

ようやくですね。現在の状況の問題点の全体像がほぼ整理できてきた感じがします。そろそろ望ましい税制について語っていきたいと思います。

すでに随分と長くなっていますので、残念ですが続きは次回ということで。

なんでやねん!!

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