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2008/06/29

日本が危ない:年金税方式試算を読み解く

何かと忙しくしていたら、前回更新から一月以上が経過してしまった。
厚生労働省が、年金を税方式にした場合に消費税が大幅にアップされるという「悪意ある」シミュレーションを公表した結果、基礎年金を税方式にするべきとの世論は、ほぼ壊滅状況である。
まさに、厚生労働官僚が意図したとおりの結果に、老練な官僚組織のしたたかさと官庁発表資料を伝達するだけの「御用機関」に成り下がってしまったマスコミ機関の危機を改めて認識したところである。

もちろん、森永卓郎氏など多くの政策ウォッチャーが、この試算の意図などを正しく認識し、ブログや評論などで指摘しているが、主要新聞紙面に掲載されるインパクトは強力で、多くの国民は当初の新聞記事によって「年金は税方式にすると負担が増える」との印象のみが残ってしまっているに違いない。
本来、有能な記者が揃っている大手新聞社である。週末の特集面などでキチンと自社が報道した記事の検証を行い公表することは、可能であり「社会の公器」であるなら当然の責務であると自覚してほしい。

さて、前置きが長くなったが厚生労働省がHPで公表している年金税方式試算、正式には「社会保障国民会議における検討に資するために行う公的年金制度に関する定量的なシミュレーション」を読み解いてみたい。
表紙を入れて71ページに及ぶ資料であるが、じっくりと読めば半日から1日で十分読み込むことができる。(今回のアップが大幅に遅れたのは単なる怠慢と反省するしかない)

ぜひ、資料を参照しながら、このブログをお読みいただきたいが厚生労働省HPでこの資料を見つけ出すのは予想どおり容易ではない。
上のリンクをクリックすれば直接PDF資料がご覧いただけるが、自ら探すなら厚生労働省HPで右上の検索欄に「年金 試算」と入力すると最初に表示される。

読者の皆さんの手元に資料があるとの前提で、シミュレーション結果に隠された秘密を見ていこう。

まず重要なのは資料は「抜粋」でも「要約」でもなく全文を公表することである。それによって、官僚が都合の良い部分のみを公表しているとの誤解を回避できる。しかも、一般の国民がポイントとなる点を容易に発見できなくなる利点もある。

次に、最初にシミュレーションの前提、制約事項、仮定した事項、結果の解釈についての限界など、シミュレーションが調査結果などとは違い「ある前提」での限られた「試算」であることを詳しく、しかも解りにくく明示することである。

そして、直接には本題と関係ない試算も行って分量を増やすことで、ポイントが解りにくくすることである。
今回のポイントは「現行方式」と「税方式」の比較にある。表題からもわかるように、それ以外の比較を行うことで、焦点が拡散するとともに、本来は税方式への変更とは関係ない要素までもが税方式の欠点のように誤解される。
年金にかかる国民負担が増大するのは現行方式でも税方式でも同一である。別論でも指摘したように団塊世代が年金受給世代になることの必然であって、いずれの方法によっても現行水準を維持する以上不可避である。このシミュレーションに頻繁に登場する右上がりのグラフは、税方式とは一切関係しないが、ざっと見た印象では「税方式は年を追って負担が増加する」とのイメージを持つのに十分である。

官僚の悪意の具体例を一つ指摘してみよう。
前回指摘したとおり、税方式により国民の負担が急増するほぼ唯一理由は、現行方式で年金財源の半分を負担している「事業主=企業=雇用主」の負担が「0=負担なし」になっていることにある。
71ページの資料で、試算の前提として「官僚が任意に仮定した」そのことが明示されているページは、ただの1ページである。
しかも「事業主負担が廃止され、全額を国民が負担する」などとは表示されない。

14ページにはこう記されている
「③平成21年度から基礎年金のため保険料徴収を完全に廃止し、一斉に税財源に切り替える。」
「税方式移行に伴って国庫負担割合2分の1を超えて追加的に必要になる財源規模を仮に消費税率換算するとどの程度になるかを示す。」
これだけである。

これが、年金財源の半分を負担している「事業主=企業」の負担をなくすことを示していることを直ちに理解できる国民がどれほどいるのか?
このシミュレーションが、その前提で消費税率が試算したものであることを理解できる国民がどれほどいるのか?

これが典型的な「官僚の悪意 = 明示する隠蔽(形容矛盾!)」だと言うことをよく覚えておかなければならない。

そのうえでシミュレーションで現行方式を図示するときは必ず事業主負担は明示し試算を示すときは全てを消費税としていく。

負担の増減額を示すときは、事業主負担がないことを「企業」として別図にハッキリと示し、決して隠蔽も省略もしない。それにも関わらず、その図示していることのポイントを示すコメントには一切触れない。

それにより、シミュレーション結果を資料から読み解くことなく記事を書く大手新聞社の記者は、官僚の意図したとおりの記事を「意識することなく」書いてしまう、そんな仕組みになっている。

ずいぶんと長くなってしまったが、他の官僚作成の資料などにも共通する「悪意ある」特徴を最後に指摘しておこう。

・結果に影響しない、または結果の正当性を証明するための、前提を変更したシミュレーションはできるだけ多く行う。読者が経過ではなく結果を早く知りたくなるよう暗黙のうちに誘導する。

・結果を解りやすくするためグラフや図表を多用する。グラフは公平に客観的に作る。その際、前提条件などは改めて付記しない。グラフの読解に集中することで、大事が前提を忘れてくれることを期待する。

・グラフそのものを読解する必要がないよう簡潔にハッキリとコメントを付す。試算の意図に沿うことは断定的に、隠したいことには触れない。グラフを読解して疑問を感じても手間をかけないと、その意味するところが容易には解らないようにしておく。

・結論はハッキリ断定的に示す。ただしその結論に多くの解釈が可能であることを詳細に幅広く抽象的に示しておく。

・比較の区分は「結論」沿うように意図的に行う。今回試算でいえば「標準的な勤労者世帯」には一般的に高額所得者と思われるような者を含め、「低所得世帯」を極めて所得が低い世帯に限定することで、一般サラリーマン世帯の負担が試算以上に増える印象と低所得者イジメの印象を生み出している。

その手法は実に悪質で、多くの政治家が実に簡単に官僚に手玉にとられるのは尤もだと実感する。
概ねこんな感じで作られた資料を配られ、丁重で流れるような官僚の説明を受けて、国会で法案に賛成するのが、多くの国会議員である。
あの悪法そのものの後期高齢者医療制度の導入時、与党国会議員の誰もが、その問題点に気付かなかったことは、ごく当然のことだと思う。
東大出身のエリート官僚の頭脳にとって「選挙に当選しただけ」の国会議員を誤解させることなど子供を騙すより簡単なことに違いない。

このシミュレーション読解に際して、直接は関係ないが驚くべき事実を知った。
「税方式により生活保護受給者が減少する」との検証シミュレーション資料である。
平成18年度時点で全生活保護受給者数は147万人。
そのうち65歳以上の受給者が約59万人で、しかもそのうち31万人が無年金だと言う。

生活保護を受けている国民の1/3以上、約4割が高齢者とは!
この数字は驚愕である。
小泉改革を通じて、生活保護はセーフティーネットであり、再チャレンジにより健全な市民生活への復帰が可能であるような印象が流布されてきた。
しかし、普通のサラーリーマンでさえ定年退職を迎えて再就職に苦労する65歳である。
この40%の生活保護受給者が自らの収入で生活を支えられるようになる可能性は限りなく低いに違いない。
しかも半分以上が何の年金も受給していないとは!
国民年金制度が創設され「国民皆年金」となったと政府が公言して久しいが、現実は多くの無年金者が存在していて、善良な納税者が負担する生活保護費を受給して生活している事実。
しかも、近年の年金納付率の低下を考えると、その数が減る可能性が限りなく低く、むしろ数十年後には急増するに違いないこと。

日本が危ない! この国の根幹が崩れてしまっていることを示す事実をまた一つ知ってしまったのである。






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